『○月―日 晴れ:小笠原 祥子

白薔薇さまが毎日のように祐巳に抱きついているものだから、

祐巳がそれを真似して色々な子に抱きつくようになってしまった。

最悪だ。

祐巳が白薔薇さまのような、節操の無い女たらしになってしまうのではないかと

本気で心配になってきた。もしそうなってしまった時は、

白薔薇さま、貴女の血で償って頂きます。』

 

 

『○月―日 晴れ:水野 蓉子

祥子が言っていた通り、どうやら祐巳ちゃんに異変が起きているらしい。

今日、それを証明するように私の目の前で祐巳ちゃんが由乃ちゃんに抱きついていた。

事態は深刻だ。

祐巳ちゃんに抱きつかれて平常心でいられる子なんている訳ないのだ。

未来の薔薇さまになるべく、「清く正しく美しく」祐巳ちゃんは教育していかなければならない。

祐巳ちゃんが変な方向に育っていってしまったら、聖、貴女一生地獄見せるわよ。』

 

 

『○がつ―にち はれ:しまづ よしの

きょう、うしろからいきなりゆみさんにだきつかれた。

びっくりしたけど、うれしかった。

ゆみさんはどんかんだけど、やっとわたしのきもちがとどいたらしい。

それにしても、ゆみさんがだきついてきたときの、

とうこちゃんたちのかおといったら。

いつもなまいきでかわいくないから、てんちゅうがくだったにちがいない。

ありがとう、マリアさま。』

 

 

『○がつ―にち はれ:おがさわら ゆみ

せいさまにだきしめてもらうと、あったかくてきもちいいので、

わたしもよしのさんにだきついてみた。

よしのさんはおどろいていたけど、よろこんでくれた。

よかった。

みんながみているまえで、だきつくってことは、つまりそういうことでいいのね?

とよしのさんがきいてきたけど、なんだかいみがわからなかったので、

うん。

といっておいた。よしのさんはもっとよろこんでくれた。

よかった。』

 

 

『○月―日 くもり:鳥居 江利子

家族が祐巳ちゃんを連れて来いとうるさくて仕方が無い。

しかも、僕達と江利ちゃんと祐巳ちゃんでずっと一緒に暮らそう、なんて言っていた。

一体何を考えているのかしら・・・・・・でも、それはそれで面白いかも。

そうするとなると、今度は超強力な催眠術をマスターしないといけないわね。

蓉子たちの怒りの矛先は常に聖に向けておけば、きっと怪しまれる事もないだろうし。

ふふふ、何だか楽しくなってきたわ。』

 

 

『○月―日 晴れ:佐藤 聖

何だか最近、身の回りが物騒になってきた気がする。

薔薇の館に行けば蓉子と祥子に無言で睨まれるし、

外を歩けば薙刀を持ったお婆さんに襲われる日々。

昨日なんて、幼稚舎で志摩子がしかけた地雷をうっかり踏んでしまった。

何だかこうして思い返していると散々な日々だが、しかし祐巳ちゃんが

聖さま、大丈夫?

と頭を撫でてくれたので、まぁ良しとしよう。

早く祐巳ちゃんと一緒になりたい。』

 

 

『○月―日 曇り:藤堂 志摩子

幼稚舎に向かう途中、何かが爆発した音が聞こえたと思って顔を上げたら、

お姉さまが勢い良く宙を舞っている姿を目撃した。

どうやら地雷を踏んでしまったらしい。

さすがに地雷はやりすぎと言う事で、先日撤去したはずなのだけれど、

しかしうっかり忘れてしまっていたようだ。

でも、これもお姉さまの日頃の行いのせいだと思えば、あまり心も痛まなかった。

お姉さま、祐巳ちゃんに抱きつくのも良いですけれど、もう少し自粛してくださいね。

私もいつまで手加減できるかわかりませんから。』

 

 

『○がつ―にち あめ:まつだいら とうこ

きょう、いきなりうしろから、

とーうこちゃん、ごきげんよう!

と、ゆみさまにだきつかれた。

こんなにひとがいるところで、だきついてくるなんて、

じょうしきをうたがってしまう。

そもそもゆみさまは、じかくにかけている。

だれかれかまわず、あんなことをしていたら、

なかにはかんちがいしてしまうひともでてきてしまうにちがいない。

ほそかわかなことか、よしのさまとか。

ここはいもうとのわたしがしっかりしなければ。』

 

 

『○がつ―にち あめ:とうどう のりこ

きょう、ゆみさまに、なつやすみのよていをきいてみた。

おねえさまとわたしとゆみさまで、いっしょにぶつぞうをみにいこうとおもったからだ。

でも、ゆみさまはさちこさまとべっそうにいくからということで、ことわられてしまった。

ざんねんだ。

これをおねえさまにはなしたら、おねえさまは、

じゃあのりこ、わたしたちもおがさわらけのべっそうにいきましょうか。

ぶつぞうてんのかえりに、ぐうぜんとおりかかったということで。

といっていた。

わたしが、

ぐうぜんなんですね。

ときくと、おねえさまは、

そう、ぐうぜんよ。うふふふ。

とほほえんでいた。

なにかたくらんでいるときのかおだったが、

べつにめずらしいことではないので、きにしないようにしておいた。

ちなみにぶつぞうてんと、おがさわらけのべっそうは、

ほうがくてきにはまったくぎゃくなんだけど、

それでもぐうぜんとおりかかってしまうらしい。

ぐうぜんとはおそろしい。』

 

 

『○月―日 晴れ:支倉 令

今日、幼稚舎で何か嫌な事があったのか、

由乃は不機嫌丸出しで帰ってきた。

どうしたの?と聞くと、由乃は、

祐巳さんの浮気者!

と叫びながら私をばしばし叩いてきた。

どうやら祐巳ちゃんが色んな子に抱きつきまくっているらしく、

それを間近で見た由乃はすっかりへそを曲げてしまったらしい。

というか、何でそれで怒りの矛先が私に向くのかわからないんだけど。

それはともかく、祐巳ちゃんに抱きつかれるというのはどんな感じなんだろう。

祐巳ちゃんの抱き心地は良いと聞いた事があるけど、逆の場合はどうなんだろうか。

抱きつかれた子が羨ましい。私も抱きつかれたい。』

 

 

『○がつ―にち はれ:ほそかわ かなこ

ゆみさまにちかづく、ふとどきものリスト。

 

しけいかくていぐみ:

おがさわら さちこ。

さとう せい。

しまづ よしの。

まつだいら とうこ。

かしわぎ ゆうき。

(以下略)

 

ようちゅういじんぶつ:

みずの ようこ。

はせくら れい。

とうどう のりこ。

ないとう しょうこ。

(以下略)

 

さわらぬかみにたたりなし:

とりい えりこ。

とうどう しまこ。』

 

 

『○月―日 曇り:水野 蓉子

今日、祥子が珍しく学校を休んだ。

しかも聞いたところによると、理由は腰を痛めたからだとか。

超お嬢様の祥子がそんな理由で学校を休むなんて。

どういう経緯を経てそうなったのかまだ判らないのだけれど、大丈夫かしら。』

 

 

『○月―日 晴れ:小笠原 清子

今日は祥子さんの代わりに私が代筆いたします。

ここ数日間、祥子さんは腰を痛めてしまって学校をお休みしていましたが、

現在は快方に向かっており、どうやら明日には無事に登校できそうです。

皆様にはご心配をおかけして、申し訳ありませんでした。

 

さて、話は変わりますが、どうして祥子さんが腰を痛めてしまったのか、

不思議に思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。

せっかくですので、ここに真相を書き記しておこうと思います。

 

事件が起こったのは数日前。

最近、祐巳ちゃんは色々な人に抱きつくのが面白くて仕方がないらしく、

家の外でも中でも、誰彼構わず抱きついておりました。

それこそ、私や融さん、挙句の果てには使用人たちにまで。

誰かに抱きついては喜んでいる祐巳ちゃんが微笑ましくて、

小笠原家は温かい空気に包まれておりました。

しかし鼻血を流しすぎて冷たくなってしまっていた人もおりました。

 

一通り抱きついたところで、今度は祐巳ちゃんは祥子さんを次の狙いに定めました。

偶然その日、祥子さんは出掛けていたので、祐巳ちゃんはまだ祥子さんには抱きついていなかったのです。

 

やがて、祥子さんが帰ってきました。

祐巳ちゃんはぱっと目を輝かせると、祥子さんの背中に向かって勢い良く駆け出しました。

その様子はまるで、飼い主に嬉しそうに駆け寄っていく仔犬の姿を連想させました。

祥子さんはそんな祐巳ちゃんに気付いていないようでした。

 

祥子さんの背中まであと数メートル、というところで事件は起こりました。

 

祐巳ちゃんが祥子さんの背中に飛びつこうとしたら、豪快に足をつまづかせてしまいました。

そしてそのままの勢いで、祥子さんの腰の辺りに頭からダイブしてしまったのです。

思わぬ角度からの直撃をくらった祥子さんは、

「うぁぁぁぁぁ」と低くうめき声を漏らしながらその場に崩れ落ちました。

祐巳ちゃんはと言うと、やっぱり痛かったのでしょう、わんわんと泣いてしまっていました。

 

腰の辺りを抑えながらその場にうずくまる祥子さん。

そのすぐ側で大声で泣いている祐巳ちゃん。

私たちはというと、一体どうすれば良いのかわからず、ただオロオロする事しか出来ませんでした。

こうして、小笠原家は一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図と化してしまいました。

 

それ以来、祐巳ちゃんは抱きつくのをぱったりと止めるようになりました。

悪気が無かったとはいえ、祥子さんを傷つけてしまった事に罪悪を感じているのでしょう。

そんな祐巳ちゃんを見ているとこっちまで心が痛んできますが、

でも、人はそういう辛い体験を重ねていって大人になっていくのですね。

祐巳ちゃん、辛いかもしれないけど、頑張って。

 

でも、もう祐巳ちゃんが抱きついてきてくれないと思うと、やっぱり寂しいわ。』

 

 

『○月―日:佐藤 聖

祥子、私は悪くないからね。』

 

 

『○月―日 晴れ:鳥居 江利子

祥子、祐巳ちゃん、貴女たち最高よ。』

 

 

『○がつ―にち:ほそかわ かなこ

のろいがきいた。』

 

 

『○がつ―にち:とうどう のりこ

ぶつぞうにがんかけしておいてよかった。』

 

 

『○月―日:藤堂 志摩子

マリアさまの力は偉大だわ。』

inserted by FC2 system